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2012年2月29日
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2012年3月5日

「レモン賞」古俣尚志さん 卒業制作を振り返って

第34回レモン展出品卒業制作作品の中から「レモン賞」を受賞をされた工学院大学工学部建築学科 古俣尚志さん(深奥建築 ー先へ先へと導く「奥」ー)に制作中の思い出などを振り返っていただきました。

大学の卒業設計最終提出から早一年。先日後輩が卒業制作を最終提出している光景をみて、もう一年かと思うと驚くばかりです。それだけ、この一年が充実していたのだと思います。今、卒業制作について振り返ってみると勉強になったこと、とても沢山あったと実感しています。厳しく、辛くとても悩んだ時期もありました。今となっては、大切な思い出です。そんな卒業制作について振り返って見ました。

「期待を裏切る空間」
4年の前期(4月〜8月)研究室のゼミ活動で行った設計課題(狭小住宅研究)が全てのきっかけでした。そこでテーマの一つとして出てきたのが「奥」です。「奥」って何?みたいな議論を研究室のみんなと何度も行った覚えがあります。実態のないよく分からない、建築における「奥」の定義付けから始まりました。

もともと私は、ワクワクするといった好奇心を刺激するような空間に魅力を感じていました。外側からは想像もつかないことが、内側で展開されている。どうなっているのだろう?気になってつい行ってしまう。その際少なからず期待し、そして、想像を超えた空間に期待を裏切られる。このような空間体験が連続していくことを「奥」であると考えました。それが後に卒業制作へとリンクする「奥」となります。

「迷路の街」
複雑に入り組んだ地形、古くからある町割り、新旧の建築の混在、中高層ボリュームの建築からヒューマンスケールの建築群、そして石畳の路地。沢山の魅力が神楽坂にあります。まるで迷路のようで、散策しているとわざわざ迷ってみたくなり、どんどんあっち行ってみたり、こっちへ行ってみたりしたくなり、魅力的な空間体験(=「奥」)が出来る街です。

そんな神楽坂を散策していると、至る所で建築工事現場を見かけました。神楽坂にも再開発の波がやはりきているようで、当時(2010年9月〜11月頃)7〜8件もの場所で建築中でした。独自の魅力がある神楽坂も均質化されてしまうのはどうなのかと思い、私はこの再開発される建築についてどうあるべきか考えてみようと思いました。

「複雑でシンプル」
具体的に設計を始めたのが9月末頃かと思います。4年間の集大成として設計していくわけですが、最後は自分のやりたいことをやろうと決めていました。神楽坂の魅力が建築内に隅々まで展開された建築。単純ではありますが、この時点で、「複雑」なイメージは頭の中で出ていました。ただ、設計していく上で単に「複雑」なのはいいものなのか、やりたいことをやるがゆえに自己満足建築になってしまうのではないかと常に葛藤しながら考えていきました。そうした上で、設計していくためにはルールが必要であると考え、街の魅力から導きだした「奥」モデルを応用して構成していくこと、そしてもう一つ「ダブルスパイラル」で空間を構成していくという二つのルールをもとに設計していきました。

「ダブルスパイラル」のアイデアのヒントとなったのは、福島県の会津若松市にある「円通三匝堂(=栄螺堂)」です。この建築は、ダブルスパイラル空間となっており、行きと帰りが異なります。神楽坂という街にスムースに接続していくことと、途切れもなく都市と建築が一連なりの空間となり、どこまでも続く散策経路にしたいと考えたことから、「奥」モデルと「ダブルスパイラル」構成で設計していこうと考えました。

結果、商業軸から住居軸に徐々に移り変わる大きな軸がダブルスパイラル状に巻き付いて、時に二つのプログラムを横断するような動線を沢山繋げることで、複雑で多様な「奥」空間を作ることができたのではないかと考えます。

「よく分からない魅力」
最後にシートとしてまとめる訳ですが、あまりにも複雑な形態が理解しがたいらしく、どうすればこの作品の魅力を伝えることが出来るのかとても苦労しました。設計ルールは簡単にしたつもりですが、出来たものをみるとそのようにはいかず、とりあえず、何だかよくわからない。単に自分の表現力がなかったせいかもしれません。もともとの「奥」というテーマから主観が入ってきてしまっているため出来たものもやはり主観的になってしまっていると感じます。真新しいこともしていないと思います。

ただ、「よく分からない」という点が、知らずに魅力を放ってくれたのではないかと考えます。「よく分からない」という言葉は不適切かと思いますが、これは一体何だろう?という疑問に思わせてくれる作品となったように思います。しかしながら、結局はいろいろとやりすぎてしまい、満足はしていません。レモン展の講評会で「建築で解決しようとしすぎている」というコメントを頂き、ものすごく痛感しました。まだまだ、考えなければならないことがたくさんあると思います。


卒業制作は、研究室のみんなをはじめ、沢山の支えがあったからこそここまで出来たのだと日々感じています。複雑な模型を、毎日コツコツと手伝ってくれた後輩には、特に感謝しています。本当にムチャぶりだったように思います。この場を借りて改めて感謝します。また、このような貴重な機会を与えて頂いたレモン画翠様に心より御礼申し上げます。