Message from professionals

レモン画翠へメッセージ

 

18世紀から20世紀の始めまで、西欧の美術教育を支配していたフランスのボザールの表現方法は「ウォッシュ・ドローイング」と呼ばれる方法で、ペンとインク、そして水彩絵具を重ねて塗り濃淡を出していく技法です。私が1960年代アメリカで学んだのもこの表現方法でした。私は現在も水彩絵具・パステルを使い設計した建築を表現しています。画材を使った建築図面は、設計者の気持ちと情熱を、よく伝えることが出来ます。東京大学で数学科の新しい建物を設計した時聞いたことですが、数学者も、ホワイトボードにマーカーで書くのではなく黒板にチョーク(白墨)で書くのでなければ、自分の考えをうまく発表できないそうです。建築の表現に通じる話ですね。コンテ・パステルでエレベーションやパースを描く時も同じで一連の動きの中で考えを整理しまとめ表現することが出来ます。伝統を重んじる英国では、ウォーターカラーミュージアムがあり、水彩画の展示と水彩絵の具・水彩筆が売られていました、多くの人が今も水彩画を描かれ楽しまれています。 英国一水彩画の名士は、「チャールズ皇太子」です、それは素晴らしい水彩画です。

色を作ることが出来る、紙を選ぶのも楽しい、自分の手で描いたことが伝えられる。絵を描くことはとても楽しいこと、国内で現在絵を描かれる方が少なくなっているということですが、コンピューターが発達すればする程、その反対に人々は手仕事に必ず戻ってくると思います。

昭和43年(1968)にアメリカより日本に戻り、その後、東京の本郷で建築事務所を開き、国内での仕事をスタートしました。レモン画翠とのお付き合いもその頃からと思います。設計製図材料・建築模型材料は新しい道具が次々と開発され、建築の表現方法は多様化されてきました。東京大学で教えるようになってから学生も競い合って、レモン画翠に行き、新しい材料を購入してきました。60年代・70年代は計画案を出しながら、新しい材料を見つけてどのような材料で表現するかということをしきりにやってきました、まさに設計そのものと繋がっていました。

私のアトリエのスタッフもレモン画翠スタッフに材料の事で何度か相談し表現方法を決めていました。建築の設計表現には、画材・建築模型材料はとても大事な道具です。これからもどうぞよろしくお願い致します。

パリのモンマルトルの丘では広場を中心に1階にカフェ、2階に住宅が入った建物が囲んでいます。広場には絵を描く人が集い、カフェは絵を楽しむ人で溢れています。1967年。私が初めてレモン画翠を訪れた時、あのパリの風景を思い出しました。マロニエの並木道を抜けた先に佇む画材屋。油絵の具のにおいと同じ趣味を持つ人の集まるカフェが独特の雰囲気を醸し出していました。

私がレモン画翠のロゴマークをデザインするにあたって、最も印象に残っているのは、前社長松永和夫さんの言葉です。当時としては非常に高額なデザイン料を提示した私に松永さんは「50年使えば、この金額は安いものだ。」とおっしゃいました。デザインに対する評価がまだ低かった時代、この言葉は何よりも嬉しいことでした。この言葉通り今もロゴマークを使って頂いていることに、ただただ感謝です。

レモン画翠を利用するようになったきっかけ

大学で建築を学ぶことになり、おそらく先輩に教えてもらってお店を訪ねました。 模型材料や製図道具を入手する以外に、手書きの図面を大判のコピー機でダブルトレスと呼ばれる厚口のトレーシングペーパーやカラーケント紙に複写して、それに水彩絵の具や色鉛筆で着彩してプレゼン等をしていましたから、そのためには提出の締め切り前に何度も駆け込みました。 学期末は多くの学校が同じようなタイミングで締め切りを設定するのでお店はいつもとても混んでいて、間に合うかどうかやきもきすることも多々ありました。

レモン画翠についての思い出・エピソード

学部を卒業する時にいわゆるレモン展と呼ばれる卒業設計作品展に出展する機会をいただきました。卒業年の5月の終わり頃だったと思います。 私は学部を出てからアメリカの大学院に進学する事が決まっていたので、展示の期間は渡米の寸前くらいのタイミングでした。この展示を上手くやってから片道切符で渡米するのだ、と妙な高揚感が自分の中にあったことを今も思い出します。

畳一枚くらいの大きさの磨りガラスを模型の敷地にした卒業設計で、そのガラス面を海に見立てていました。作品を運び込んで暫くしたときに自宅に連絡があり、ガラスが割れましたとのこと。すぐに別のものをご用意くださり難なきをえたのですが、磨りガラスの仕上がり感が自分の用意したものとは少し違っていたのを思い出します。今では当時のエピソードとして良い思い出です。

その後、大学で建築を教える立場になり、卒業制作の世話をした学生がこのレモン展に出展をさせていただく機会も多くなりました。その都度会場に足を運びますが、私自身のころとは規模も違いますし集まってくる作品の性格も違っています。ただ、大切な共通部分は、模型や図面で表現された建築の世界にすっと没入し、あれやこれやと妄想することの楽しみです。

あ、それからもう一つ。留学先のアメリカに、卒業設計作品展でとてもお世話になったレモン画翠さんのスタッフの方が訪ねてこられたことがあります。そのようなかたちでスタッフの方と邂逅することが出来た事がとても嬉しくかったですね。これまでも、そしてこれからもどうそよろしく、末永くおつきあいください。ありがとうございます。