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印象派はこうして世界を征服した

白水社から刊行されている「印象派はこうして世界を征服した」を読みました。「モネとジヴェルニーの画家たち」展を観て感じたことから手に取ってみました。

著者のフィリップ・フック氏は、サザビーズの印象派&近代美術部門のシニア・ディレクター。美術関連の著作のほかに推理小説も書いています。本書も小難しい美術書ではなく、サスペンス小説を読んでいるようにどんどん読み進めてしまいます。時々奇妙なオチがあったりするのは英国のユーモアですよね。前半は、国によって異なる印象派受容に焦点があてられています。ざっくりと要約・引用すると...

フランス〉最初に敵意があったが、それがだんだんに富裕層に受け入れられ確立した趣味として認められていく
  • 光を表わすという新しい試みが自分たちを侮辱するもののように感じられた。
  • 世界中の医者や歯医者が光に満ちたモネやルノワールの絵の複製画を病院の待合室に飾っている。木漏れ日には不安を和らげる力があるのだ。
アメリカ〉生来のフランスびいきの感情と、若い国に特有な芸術的偏見が無いおかげで印象主義は力強くそして早く根づいた
  • アメリカ人の趣味に反映して、18世紀様式の金メッキの額縁に入れられたモネの作品。
  • ルノワールの描いた「クランピソン夫人の肖像」は、アメリカ市場向けによりロマンティックなタイトル「薔薇のなかで」に変えられた。
ドイツ〉フランス印象主義への熱狂は、政治的そしてときには民族的な意味をもっていた。それは急進的で反帝国主義的な心情の焦点になるものだった
  • ドイツ皇帝は不機嫌になり、いま目にしたフランス印象派の画家たちは、「重要性に欠ける」と宣言してそれらの作品を二階のもっと目立たない場所に移すようにと命じた。
  • 自分を相当の美術通だと考えていたナチスの高官ヘルマン・ゲーリングは、秘密裏に印象派の画家たちのいく人かを好み、自身のコレクションにルノワールの作品を1, 2点入れていた。
イギリス〉フランス嫌いの英国では、印象主義の受容は他のどの国よりも時間がかかった
  • モネやピサロ、ルノワールやほかの〈印象派〉の画家たちの視力の実際の状態について、眼科医から診断報告をもらうことができれば、非常に興味深い結果になるだろう。
  • 「この新しいフランスの一派は、ただ腐敗し、分裂している」と、ラファエロ前派の画家ロセッティは弟に向けて書いている。
とにかく面白すぎ。ただ注意しないといけないのは、いろいろな視点から書かれていますがちょっとステレオタイプ的です。各国の人々がみんなそうなんだと考えるのはちょっと危険な感じ。まあ、話半分くらいに思っていたほうが良さそう。日本人コレクターのことが、
  • どんなことがあっても連中に崖の絵はすすめてはいかんよ。日本人は崖が怖いのだ。
  • 背筋をのばして立てよ。日本人は背の高い男を尊敬するんだ。そのほうが神に近いと考えているんだよ。
ですから。ちょっと違うでしょう!!

後半は、著者の本業である二大オークション会社(サザビーズとクリスティーズ)の熾烈な競争が書かれています。画商の手腕によって売られていた絵画が、ショー化したオークションでとてつもない印象派絵画高騰の牽引力となっていきます。最終章ではバブル期の日本企業・日本人コレクターの狂乱ぶりも書かれています。
オークションで品物を手を入手することは、二重の喜びだ。まずその場にいる他のすべての金持ちよりも高値をつけることで、自らの財力を誇示することができる。そして落札できれば、自宅の客間の壁にその絵をかけて、友人たちに成果を自慢することもできるわけだ。モネやルノワール、ドガの絵は、その闘いの賞品として重要な役割を担い、オークションという、命をかけて闘うリングで勝ちえることのできる文字通りの「トロフィー」となった。
本書の原題は、The Ultimate Trophy〈究極のトロフィー〉とはまさにこのことなのですね。

最後に気になったのが、
1960年代にはモネのイメージを変えるさまざまな出来事がおこった。その一つはアメリカの抽象表現主義者と呼ばれる画家達による予想外ともいえるモネの再発見だった。モネが20世紀になって描いた巨大な睡蓮の絵は、ほとんど抽象の域に達していたが、その絵をどう批評するかに焦点がおかれるようになっていった。晩年のモネを再発見した立役者は、ジャクソン・ボロックをはじめとした抽象表現主義の画家たちだったことに疑いない。

睡蓮、柳の反影 クロード・モネ 北九州市立美術館蔵

「モネとジヴェルニーの画家たち」展の最後にあった《睡蓮、柳の反影》。実は何これって感じだったです。もっとじっくり観ればよかったです。晩年のモネは白内障を患っていて視力がかなり落ちていたそうです。モネの心の中の睡蓮が表れているように思えてなりません。それとも単に夜だったりして...。(K)