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「レモン賞・高橋靗一賞」杉中俊介さん 卒業制作を振り返って

第34回レモン展出品卒業制作作品の中から「レモン賞・高橋靗一賞」をダブル受賞をされた京都大学工学部建築学科 杉中俊介さん(変わりゆく建物)に制作中の思い出などを振り返っていただきました。

はじめに
この卒業制作は頭のなかで理想の建築物を構想し、それが最も純粋に現れる形態や最も映えるプレゼンテーションの方法を模索していくというプロセスではないので、参考になるか分かりませんが振り返ってみたいと思います。ここでは思想/時間/素材/制作という4つの切断線を引いて振り返ることにします。

思想
卒業制作では建築物というより建築の存在形式について提案しました。完成されたものを提示するのではなく、だからといって単に未完のままがいいというのでもない、そういった時間感覚を超えたところに僕は未来を見ています。こうしたことはかなり以前から考えていて、たくさんの建築物を見学し、町を歩き、多くの本を読みながら思考を深めるよう意識してきました。本を読むにしても、筆者の言わんとしていることを理解しようとするだけでなく、自分の問題意識のなかで意図的に誤読したりして思考すれば何かが得られるような気がします。そうやって育んできた、時間や運動を中心とした思想をいかにして設計のプロセスに取り込み、建築に反映させていくかということがこの卒業制作の主題です。

時間
卒業制作について4回生の春頃から漠然と考えていて、夏の院試終了後から本格的にスタートしました。その頃は卒業制作で何をするかというよりも、普段から考えていることを卒業制作としてどう表現するかということを考えていました。9月末には既存の建物を大切にし、それを設計に組み込むということを決め、敷地とおおよそのプログラムを定め、9-10月にその建物の実測調査と居住者への聞き取り調査を行いました。建物の実測調査では現状はもちろんのこと、改造の痕跡や居住者の手垢といったものも隈なく調べ、聞き取り調査ではこれまで誰が住んできたか、各場所にどのような思い出があるかといったことを中心にさまざまなことを聞きました。こうしたものを総合させて敷地が現在までどのように変化してきたかをということを明らかにしました。

そこから学んだことはとても多く、すべて卒業制作に直接的に反映されているわけではありませんが、大きく影響を受けたことは間違いありません。9月に大まかなコンセプトが決まった時点からプレゼンテーションをどうするかということは考えていて、模型を時間変化させていき、定点撮影によって記録をとっていくということにし、11月には本模型を作りはじめました。といっても12月末ごろまでは過去から現在までの変化を追いながら楽しんでいただけですが。1月からはただひたすら、設計・模型制作・図面作成を卒業制作のなかで仮構された時間に沿って進めていき、締切日に一旦終了し、展示期間が終わると再開するということを繰り返していました。それゆえ最終的にいつ卒業制作を終了したのかは自分でもよく分かりません。

素材
この卒業制作では、形態自体はそれほど重要とは考えておらず、時間的変化、空間的変容のなかでそれぞれがどのような関係性を構築していくかということがわかるような模型になるように考えました。したがってリアルなテクスチャ感を重視し、できる限り同じ素材を使うようにしました。例えば漆喰部分は本当に漆喰を塗り、コンクリート部分は木型を作ってセメントを塗って作るといったふうにしています。木部分も樹種や保護塗料、風合いの違いを出すために20種類ほど使い分けています。またよく気分転換がてら画材屋さんやホームセンターに行ってさまざまなものを見、面白い素材があれば購入しておき、それをどうやって使うかということを念頭に設計をしているところもあります。とにかく設計、形態確定、素材決定という順番をやめ、相互に関係を持ちうるように意図しました。

制作
自分が模型制作を通してイメージをかたちにしていくことが多いということはそれまでの設計課題である程度把握していたので、卒業制作ではそれをさらに実験的に行っています。単なる表現手段としての模型ではなく、思考の場としての模型となるように考えました。

例えば、昔の状態から順番に作っていくとき、最初は追加していくだけなので楽なのですが、途中から一部を壊したりしはじめなければならなくなります。実際に数週間前に苦労して作った部分を誰にも見せることなく壊していくというのは本当につらいものがありましたが、そういった葛藤を経つつ設計し、手を加えていくということが重要だと考えて制作を進めました。模型の部分取り壊しによって接着剤の痕だとかが残るのですが、そういったものまで綺麗に取り除くのではなく、実際の建物における痕跡と同じように考え、大切にしています。また制作の合間には友人達と一緒に近くの温泉に行って気分転換したりしたのも良い思い出です。

おわりに
以上のようなことを考えながら卒業制作を行いました。もちろんそれはひとりでできることではなく多くの人の補助と協力によっています。そしてレモン画翠様をはじめ多くの方に発表の機会をいただき、うれしく思っております。この場を借りて厚く御礼申し上げます。